7月11日(木)より、東武百貨店池袋店にて個展が始まる疋田正章先生。
アトリエに訪問させて頂きました!
–先生の作品以外にも、他の作家さんのものも飾られていますね。
真ん中は弊社お取扱作家の平林孝央先生ですね。
平林さんは、2014年にseekでグループ展をされた時に購入させて頂きました。
左は古吉弘さん、右は入江明日香さん。
–やはり他の作家さんの作品を見て刺激されることは多いですか?
そうですね。元々見るのも好きで。
美術館やギャラリーに行ってもかなり長く滞在します。
どう描いてるんやろ・・・と思わず見入ってしまうんですよね。
ジャンル問わず立体や抽象も好きです。
手前の猫の作品はクラフト作家のりゅうざぶさん。
–普段はどんな感じで制作されていますか?
いつもここに座って、イーゼルに絵を置いて描いています。
絵を描くときの手順は、確立しているものはなくて、毎回試行錯誤しながら描いています。
この「チャコ」という作品ではまず、パネルに綿布を貼ってジェッソを塗った自作の支持体を用意します。
そこに軽くデッサンをしてテレピンで薄めた褐色の絵具を全体に擦り込みます。
しばらく乾燥させてから、ダイレクトに固有色を置いていきます。
資料として写真を使用してはいますが、モチーフの形態感や空間は常に意識しながら描いています。
最後の方は、一日中描いてもほとんど見分けがつかないといったことがよくありますが、納得がいくまで作品と対話しながら、仕上げていきます。
–油彩画を選んだ理由はなんでしょう?
油彩は昔から描いていたわけではなく、高校生の時に、授業で初めて触れて以来です。
ただ、その頃からヨーロッパの古典絵画が好きだったのですが、所謂一般の方がイメージするようなキャンバスに豚毛やナイフでゴテゴテと描くというやり方しか知りませんでしたので、ずっと油絵は自分には合わないなと感じていました。
–疋田先生の作品は、油彩でも繊細だとお客様からもお話を頂きます。
ありがとうございます。
実際には、油彩画というのは、キャンバスだけではなく平滑な画面にも描けますし、柔らかい筆も使います。
また、古典絵画にはある程度確立された制作工程があります。
そういったことを大学生の頃に通い始めた絵画教室の先生に教えて頂いて、そこから一気に油彩画の魅力に嵌まっていったように思います。
–古典絵画にも影響を受けているのですね。
ギュスターヴ・モローという19世紀のフランスの画家が、高校生の頃から一番好きな作家です。
あと、表現としての絵の力を感じたのは鴨居玲です。
鴨居玲は文章もとても好きで、著書の「踊り候え」は何度も読み返しました。
直接的に強く影響を受けた現代の作家は、三嶋哲也先生、中上誠章先生、古吉弘先生です。
三嶋先生と中上先生には絵を習っておりましたので、考え方も画風も一番影響を受けていると思います。
–三嶋先生の教室は、弊社お取扱の河本いづみ先生や梅澤恭介先生なども生徒さんですね!
普段使われている画材などを教えてください。
絵具は同じ名前の色の絵具でも、メーカーによって色味や特徴が全く違うので、自分にあったものを色々と試しながら使っています。
よく使うメーカーは、ブロックス、ルフラン、クサカベ、春蔵絵具などです。
筆に関しては、色々な筆を使います。
油彩画用だけでなく水彩画用や日本画用の筆、種類も豚毛からナイロンまで様々な筆を試しながら使っています。
猫を描く際は、日本画用の筆を使うことも多いです。
うーん、こういうのって絵具を含ませると毛が分かれてくれるんですよね。
一本一本描くより、まとめて描けるんですよ。
–猫は昔からお好きなのですか?
猫は15年ぐらい前に友達が拾ってきて、それをぼくが引き取る形で飼いはじめました。
それまでは、それほど興味がなかったんですけど、飼いはじめたら猫の魅力にはまってしまって(笑)
猫という生き物は、気まぐれで、捉えどころがなくて、そういうところに魅力を感じますね。
–猫を描く作家さんは昔から巨匠含め多いですが、やはり惹きつけられるものがあるのでしょうか。
猫は僕にとっては真逆のような存在で、一種の憧憬のようなものを感じているのかもしれません。
-2011年に、和歌山電鐵貴志川線貴志駅、猫の駅長「たま」肖像画も制作されていますよね。
はい。
思い返してみると、とても不思議な縁だったと思います。
以前、神戸で個展をした時に和歌山電鐵の社長のご家族の方がたまたまDMをご覧になり、それで社長にたまちゃんの肖像画をこの作家に描いてもらったらどうかと話してくださったそうです。
(現在は2代目たまちゃんが活躍されています♪)
–猫はご実家の猫や、どこかに行かれて取材されているのですか?
そうですね。
知り合いの猫、猫カフェや、屋外での取材など、様々です。
猫が沢山棲み付いている田代島や瀬戸内海の島々に取材に行ったこともあります。
–今回の出品作の中でも大作の80号は、どんな猫ちゃんですか?
この子は兵庫県の姫路にあるメインクーン専門の猫カフェ、「mof.mof」の雅くんです。
瞳が宝石のように綺麗な子だったのでタイトルを「Jewels」と名付けました。
光の当たっている部分は絵の具を盛り上げてマチエールを作っています。
油絵具の物質感と透明感が油絵の魅力の一つでもあるのでそこも是非見て頂きたいです。
–飼い猫にはどんな部分に魅力を感じますか?
雑種の子ももちろんいますが、例えばこのモデルの雅くんは、メインクーンという純血種ならではの魅力というか、優雅さに惹かれますね。
飼い猫と野良猫とでは、表情も全く違うので、それぞれ違った魅力があります。
–野良猫はどうでしょうか?
野性味や、野良独特の気高さが良いですよね。
「潮の風」F10号のモデルになった子は、岸壁で潮風をうけ、気持ち良さそうにしていました。
青島は島民より猫の数が多い猫の島として有名な島です。
猫をモチーフにする場合は、猫そのものの魅力を引き出せるように描いているという感じでしょうか。
人物画の場合は、モデルさんを通して何かを表現したいという感じです。
–題材によって、意識の違いがあるのですね。
人物は猫の絵を描く時とは違って、あんまり距離を詰めすぎず、ある程度距離を保って描くようにしています。
猫は毛並みとか瞳の質感を追い求めて、とことん追求して描きますが、逆に人物はそんなに描き込みたくないんです。
人物を描くときに猫ぐらい質感を追い求めたらなんかいやらしくなりますよね。
–人物は昔から描いていたのでしょうか?
作家としては猫を先に描いてたんですけど、ずっと人物は描きたいと思っていました。
でも実力不足を感じていて・・・。
デッサン会などで徐々に勉強していって、描いていった感じです。
やっぱりでも昔から見るのは人物が一番好きなんですよね。
可愛い女性を描きたいというのは根底にあるんだと思います。
「紅」 F6号
–女性像を描くときのこだわりなどはありますか?
表情や仕草には非常に気を使います。
「紅」F6号は手鏡で化粧直しをしているふとした仕草に美しさを感じ作品にしました。
あと、服装に関しては日本人はやはり和服が似合うと思うので、よくモチーフにしています。
–確かに和装もよく描かれてますよね。
和装は自然とモデルさんの佇まいも美しくなりますし、淑やかな感じが良いなあと思います。
–全体的に作品を通して表現したいことはなんでしょうか。
表現したいことは言葉にならない漠然としたものなので、いつも答えに困ってしまうのですが、キーワードとしては、儚さや、憂いといったようなものでしょうか。
作品の中に表現したいことを込めていますので、観て自由に感じとって頂けると嬉しいです。
自分にとって絵を描くことは、自分を表現する手段です。
人によって言葉だったり、音楽だったりしますが、私にとって、言葉というのはしっくりこなくて、自己表現の手段としてずっと描き続けてきた気がします。
–ところで、疋田先生は立命館大学理工学部をご卒業されてますよね。
画家としては特殊な経歴ですが、絵を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
小さい頃から、絵を描くのは大好きでした。
学校の授業でも美術が一番楽しみでした。
具体的にいつ頃から絵を描いていたかは記憶にありませんが、小中高ではずっとイラストや絵を描いていて、大学では美術部に入部して暇さえあれば絵を描いているような人間でした。
–大学で理工学を専攻した理由としてはなんだったのでしょう?
将来の仕事を現実的に考えた時、画家になるという選択肢はなかったので。
ですが大学院まで進んで、本当に自分のしたいことを考えようと思って休学届を出しました。
そこから、禅寺で7か月間修業をしました。
–それはすごい体験ですね。どんな日々でしたか?
毎日何時間も座禅をしてましたね。
あと食事や掃除なども時間がきっちり決まっていて、その日によって担当があったり。
そういった自給自足の生活や、出会った住職さんの教えなど、たくさんの出会いに助けられて今があると思っています。
–画家になると決意された時、周りの反応はどうでしたか?
大学院を中退したとき、親に猛反対されました。
ただ、最終的に父親が「しがみついてでも諦めずにがんばれ。やる気があるんだったら俺はもう何も言わん」って言ってくれたんです。
その言葉を聞いて、10年、20年かかっても諦めないでやっていこうと決めました。
–では、これからの夢や目標を教えてください。
国内外のアートフェアなど、大きな舞台で個展をしてみたいです。
ネットやメディアが普及して、これまでにも増して、作品をモニター上や紙面上の画像だけで判断されることが多くなった気がします。
油彩画の魅力というのは、実物を見ないと伝わらない部分が大きいと思っています。
見ていただく機会が増えるように、これからも発表の場を増やしていきたいです。
–最後に個展をご覧くださる皆様に一言お願いいたします。
猫をモチーフにした作品を中心に女性像を含め、約25点を展示して頂く予定です。
この機会に個性溢れる様々な猫たちに会いに会場まで足をお運び頂けると幸いです。
–疋田先生、ありがとうございました!
個展は11日(木)より開催いたします。
皆様のお越しを心よりお待ちしております♪
「疋田正章 油彩画展–筆で語る憧憬–」
7月11日(木)~ 7月17日(水) 10~20時 ※最終日は16時半閉場
会場:東武百貨店池袋店 6階1番地 美術画廊
出品作家:疋田正章
作家来場日:7月11日(木)~17日(水)各日13時~17時